影の財界総理
富・名声・立場。
自分の人生で得たものを何のために使う?
貧しい子供を救うため?
子供の頃から夢見た宇宙開発のため?
一生遊んで暮らすため?
現代の経営者たちは何のために、富や名声を手に入れるのだろうか?
そして何に使うのだろうか?
かつての日本人を見ることで、富の使い方の参考になるかもしれない。
昭和の時代。
自分の国を発展させるため、
自分以外にも国民を富ませるため、
自分が得た富・名声・立場を使った人がいた。
政治家を動かし日本を富ませた人がいた。
その人の名は小林中。
小林中とは
小林中(1899年〜1981年)は山梨県出身の経営者。
その後、富国徴兵相互保険(現:富国生命)に入社。
帝人事件と呼ばれる汚職事件で投獄され、後に無実と判明し釈放される。
戦後は東急電鉄社長を経て、保険協会会長、日本開発銀行総裁(現:日本政策投資銀行)に就任する。
その後は、味の素、日本郵船、朝日麦酒、アラビア石油など、様々な企業に関わる。
生前は、影の財界総理、財界四天王、と呼ばれた。
なぜそのような異名を持ったのか。
なぜなら、小林は政治を変えるために自分の富と立場と名声を使ったからである。
「内閣が潰れてもいっこうに平気だ」
小林が保険協会会長の時。
敗戦後の日本政府は戦費の調達により膨大な負債を抱えていた。
負債総額は当時の額で1994億円、国民総所得の2.67倍。
この問題を解決するために時の芦田内閣は、
負債の支払いを楽にするために利子を天引きしようとした。
これに小林は強く反対した。
戦争中、銀行や生命保険会社は無理やり大量の国債を買わされていた。
政府が利子を払わなければ銀行や生命保険会社は大損。
小林は経営者として正論を説いた。
大蔵大臣が
「これが否認されると芦田内閣が潰れざるを得ないことを解って欲しい」
と言うと、小林はすかさず反論した。
内閣というものは潰れても次の新しい内閣は直ぐ出来ます。芦田内閣が今日潰れても明日にも新内閣は生まれるでしょう。だから内閣が潰れたって、いっこうに平気です。しかし国家は違う。国家の信用はいったん失われたら、そう簡単には回復しません。日本という国家の信用問題が国債的に発展していったらどうなるんです。それでよろしいというなら、僕は芦田内閣は早速退陣した方がいいと思うのですがどうですか。
胸のすく言葉である。
しかも政府(内閣)と国家は別物と言う基本を理解した上での発言。
現在の経営者で、「内閣が潰れてもいっこうに平気だ」なんて言える人、
果たしているのだろうか。
1日で選挙資金を作る男
小林は吉田内閣の時に資金援助をし、吉田政権の長期化を支えた。
例として、吉田が衆議院を解散し、選挙を決断した時。
吉田は小林に対して明日までに選挙資金5000万円(当時)を集めるよう命じた。
それに対して小林は二つ返事で応じる。
小林は人脈を頼りに選挙資金を捻出した。
あくまで小林個人に貸す資金であるという名目で。
つまり小林は、資金の使い道の責任を受け持ったことになる。
資金の捻出に難色を示した途端に小林は叱りつける。
最終的に小林はたった1日で5500万円の選挙資金を作りたした。
財界でささやかれた言葉がある。
小林さんは最も汚い金を最もきれいに動かす
小林は汚い側面がある政治資金を自分の責任で動かすことで、時の政権を支えた。
さらに資金を出し渋る政治家は叱りつける。
現在の経営者や財界にここまで胆力のある人はいるだろうか。
「所得倍増」の後押し
時は流れて池田内閣の時。
池田内閣は、政治姿勢で「寛容と忍耐」、政策に「所得倍増」を掲げた。
日米安全保障条約の批准をめぐり、デモが起きた後だった。
池田は、国民の頭を転換させるためにも経済政策に的を絞り、国民生活の豊かさを追求した。
この池田の姿勢に対して、小林をはじめとした財界は強力に後押しした。
所得倍増というのはあいつの持論でね。僕らもこれには大賛成で、国民を豊かにして国民の頭を安保から転換させるべきだ、と説いた。そして実際に安保騒動はすっかり沈静化してしまった。日本経済は本当に池田の時代に躍進したんだよ。だから池田内閣は財界からも国民からも受けが良かった。
小林と池田は同じ生まれ年(明治32年生まれ)。
一緒に囲碁を打ち合う仲であり、「おれ」「お前」と呼び合う仲であったという。
小林は盟友池田に対して、自分の信念である経済政策を貫けるよう、財界の支持を集めた。
「所得倍増」は小林と池田の双方が協力して成し遂げたことだった。
経営者や著名人に説いたい
人は自分が集めた富・名声・立場を何に使うのだろうか
この日本には金融資産で1億円以上持っている方もいる
youtubeで100万回以上も再生される方もいる
あなたが持つ富と名声と立場を少しでも使うだけで、
日本の政治ひいては歴史を変えるものかもしれない
あなたは日本の歴史を変える力を持っている
参考文献
坂口昭『沈黙の巨星 小林中の財界史』(日本経済新聞社、1985年)