先の大戦から考えるイノベーション

今年も終戦の日が近づいてきました。

私たちはおびただしい犠牲を出した太平洋戦争について何か学び、

現在に生かしてきたのでしょうか。

今回はそれを考えさせる本を紹介します。

鈴木博毅

『「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ』

ダイヤモンド社、2012年)

 「超」入門 失敗の本質

本書は、1991年に出版された『失敗の本質』の内容をわかりやすくまとめた本です。

先の大戦で日本軍が犯した数々の失敗について考察されています。

本書では7つの観点から日本軍の敗因を分析しています。

7つの観点は、戦略性、思考法、イノベーション、型の伝承、組織運営、リーダーシップ、メンタリティです。

どれも現在でも通用する考え方ですが、その中でも特に「イノベーション」の考え方を紹介したいと思います。

理由は、現在低迷している日本企業と共通する部分があると考えたためです。

日本軍の快進撃と米軍の対策

開戦当初、日本軍の兵士や航空機はかなり強かったと言われています。

例えば、

  • 零戦は圧倒的な回旋性能により一対一の戦いに強い
  • パイロットを猛特訓で鍛え上げて零戦の性能を最大限発揮
  • それ以外の兵士も極限まで特訓、射撃の命中精度や見張り員の視力は達人の域

などです。

これら結果により、開戦当初、日本軍は怒涛の勢いで快進撃を続けていました。

ではこのような日本軍に対して、米軍はどのような対策を採ったのでしょうか。

米軍では逆に「達人を必要としないシステム」を考えました。

例えば、

  • 操縦が下手なパイロットでも生き残れる飛行機の開発と戦術の考案
  • 命中しなくても近くをかすめるだけで爆発する砲弾
  • 視力がなくても敵を発見できるレーダーの開発

などです。

日本軍の強みを無効化した米軍のイノベーション

なぜ米軍は「達人を必要としないシステム」を採用したのか。

理由は、米軍は日本軍が勝っている「指標」に着目し、その「指標」を無効にする新しい「指標」を考えたからです。

航空機であれば、零戦の「回旋性能」という指標で勝負せず、「数の多さ」という指標で戦いました。

1機の零戦に対して複数機で戦えば、回旋性能の高い零戦が後ろに回り込んでも、他の機体が零戦の撃破できるポイントに回り込めます。

このように米軍は、イノベーションによって相手の強みを無力化する方法をとりました。

イノベーション創造の3ステップ

本書では、イノベーションが生まれる過程は3つのステップがあると書かれています。

  • ステップ1:「既存の指標」の発見
  • ステップ2:相手の指標の「無効化」
  • ステップ3:「新たな指標」で戦う

米軍の場合は、

  • ステップ1:無傷の零戦を鹵獲しテストした結果、「回旋性能」という指標を発見する
  • ステップ2:2機1組で戦雨ことで、「回旋性能」を勝利の要因でなくする
  • ステップ3:「連携性」という新しい指標で戦い、零戦に勝つ

という過程です。

これは、現代の外国企業でも当てはまります。

アップルの創業者、スティーブ・ジョブズのi-Podやi-Tunes、i-Phoneを例にとると、

 

ステップ1:「既存の指標」の発見

  • 工業製品的なデザイン
  • 処理能力や価格の競争
  • 通話や通信の高い技術

ステップ2:相手の指標の「無効化」

ステップ3:「新たな指標」で戦う

 プラットフォーム化し、技術競争や価格競争から一線を引く

 

本書では他にも、インテルマイクロソフトの例も紹介しています。

これらの企業も同様のステップでイノベーションを生み出し、優位に立っています。

果たして現在の日本企業は?

対して日本企業はどうでしょうか。

日本企業は高い技術力を持っていると言われていますが、この指標について考えているのでしょうか。

単に高性能であれば売れると考えてはいないでしょうか。

過去の成功体験に囚われ、同じ指標のものを作り続けていないでしょうか。

既存の指標を見抜き、それに取って代わる新しい指標を生み出す必要があるのではないでしょうか。

この本を読んで、日本企業が低迷している要因の1つには、イノベーションの生み出し方を知らないことではないかと考えるました。

私たち日本人は先の大戦で多くの犠牲を払いました。

大戦の教訓を少しでも現在に生かすことができればと思います。