交渉思考という世の中を変える武器
日常生活の中で交渉する機会はあると思います。
例えば、誰かに頼みごとをしたり、逆に頼みごとをされたり、友人とどこで待ち合うかなど、交渉の一つの形です。
私は昔から交渉が苦手です。
自分の言い分を引っ込めてしまうからです。
どうすれば自分の要望を叶えつつ、相手の要望も叶えられるか悩んできました。
そこで読んだ本がこれです。
瀧本哲史『武器としての交渉思考』(星海社新書、2011年)
この本では、交渉するときの大切なポイントが3つ書かれています。
その3つとはバトナ、ゾーパ、アンカリングです。
バトナ
バトナとは、Best Alternative to a Negotiated Agreementの頭文字をとった言葉です。
意味は「相手の合意する以外の選択肢のなかで、一番良いもの」です。
交渉で一番最初にやらなければいけないことは「選択肢を増やす」ことです。
相手の提案が自分に良いものか知るには、比較対象を知る必要があります。
比較する対象があれば、相手と合意すればよいのか、他の提案を受ければ良いのかがわかります。
このように交渉は、自分と相手のお互いのバトナによって決まります。
では交渉を有利に進めるためには、何をすればよいのでしょうか。
それは相手のバトナを知ることです。
相手の選択肢がわかれば、自分の選択肢と照らし合わせて、満足いく条件を見つけやすくなります。
そのためには、相手から直接情報を得ること、自分からたくさん提案すること、が大切です。
瀧本さんは「交渉というのは結局、情報を集める「だけ」の勝負です」と言い切っています。
バトナを用意しておくとさらに良いことあります。
それは、「自分にとって不都合な合意を避けることができる」ということです。
自分が受け入れられない条件がわかるので、いざという時は交渉を打ち切ることもできます。
事前に交渉の決裂も想定できるので、心に余裕がもてるようになります。
あらかじめ選択肢を複数準備しておくことで、交渉がしやすくなるのです。
ゾーパ
ゾーパとは、Zone of Possible Agreementの頭文字をとった言葉です。
「自分と相手のバトナによって決まる、合意の範囲」のことです。
一見ゾーパが無い場合でも、バトナを見直すことでゾーパを作ることができます。
それでもゾーパが見当たらない場合は、交渉自体が無駄になるので、決裂したほうがマシです。
ゾーパがある限り必ず交渉する意味が生まれます。
交渉の結果、ゾーパの中で条件が決まれば、自分にとっても相手にとってもwin-winな条件になります。
このようにビジネスで取引が成立すれば、基本的にwin-winとなります。
しかし双方がwin-winだったとしても、自分はどのくらいwinだったかを考えなければいけません。
交渉においては、どちらかが大きな取り分を得た場合、もう片方の取り分は小さくなってしまうからです。
交渉が終わったあと自分はどのくらいwinだったか、よく把握しておく必要があります。
以上のようにバトナとゾーパを使えば、自分に有利に交渉ができます。
しかし、いきなりこの交渉思考を使うのは、心理的なハードルが高いと思います。
そこで瀧本さんは、交渉するときは「自分のことは思わずに、代人として交渉を頼まれた」と考えることを勧めています。
また、「交渉する人」「分析する人」「意思決定する人」自分の中で分けると有効だ、とも述べています。
まるでロールプレイを自分で決めて、ゲームをするようにも思えます。
本当に交渉に強い人は、相手の話をじっと聞いて、冷静に分析して、カードゲームのように手札を切る人なのです。
アンカリング
アンカリングとは、「最初の掲示条件によって、相手の認識をコントロールすること」です。
交渉で大事なことは、「交渉はどこからスタートするかによって結果がまったく違ってくる」ということです。
人は無意識のうちにアンカリングの影響を受けてしまいます。
そのため、最初に相手から提案を受けた場合は、「この条件の設定自体に何かおかしいところはないか」疑ってかからなければいけません。
逆にこちらからアンカリングを仕掛ける場合は、アンカリングだと悟られないようにする必要があります。
そのための条件は、高い目標であること、条件が現実的であること、提示した条件について説明が可能であること、3つです。
アンカリングはこちらが有利な条件にするために使うので、出来るだけ相手にとって高い条件である必要があります。
しかし、あまりにも現実的でない条件では、相手は交渉に乗ってくれません。
また提示した条件を相手が納得できるように説明できなければ、アンカリングがばれてしまいます。
そのため、高い目標でありつつ、現実的で、相手が納得のいく説明ができる、条件でなければいけないのです。
最後に
瀧本さんはこの本で覚えてほしいことを書いています。
それは、
「言葉こそが最大の武器である」
ということです。
私たちが普段使っている言葉には、強力な力があるということです。
実際、バドナやゾーパ、アンカリングは、全て言葉を用いた技術です。
瀧本さんは、「もし本気で世の中を変える力を身につけたいと思うならば、まずは言葉を磨くことです」と断言しています。
自分の知らない相手の言葉を学び、自分が持っている言葉を磨く。
磨き続けた言葉を使って交渉し、世の中を変えていく若者が1人でも増えてほしいと、瀧本さんは願っているのかもしれません。